漢詩詞創作講座初心者17 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 TopPage

律詩の成立

 前二章で古詩とはどんなものか理解できたと思います。そこからキチンと整った形式の律詩が生まれて来たと考えられます。律詩の公式は次の通りです。

@平起こし            
×○×●●○◎,×●×○×●◎。 (起聯)
×●×○○●●,×○×●●○◎。(頷聯)
×○×●○○●,×●×○×●◎。(頸聯)  
×●×○○●●,×○×●●○◎。(合聯)

A仄起こし
×●×○×●◎,×○×●●○◎。(起聯)
×○×●○○●,×●×○×●◎。(頷聯)
×●×○○●●,×○×●●○◎。(頸聯)
×○×●○○●,×●×○×●◎。(合聯)

 まず第9講で示した絶句の公式と対比してください。四句から八句になりました。そのほかに律詩には第三句と第四句、第五句と第六句を対聯にしなければならないというルールがあります。その例を拙詩を以て説明しましょう。これは仄起こしを使っています。

  旭翠先生常想詩, 旭翠先生 常に詩を想う,
  枕辺機上厠中怡。 枕辺 機上 厠中怡しむ。
  曾游侶婦欧州宿, 曾て婦を侶いて游ぶ欧州の宿,
  未得埋毫昏暮辞。 未だ毫を埋めるを得ず 昏暮の辞。
  浴室長留望独醒, 浴室 長く留りて 独り醒めんと望めど,
  愛人短慮誹相離。 愛人 短慮 相離るるを誹る。
  雅心操志難雙立, 雅心 操志 雙に立つは難し,
  不羨梅妻林逋時。 羨まず 梅妻林逋の時を。

 旭翠先生は奥様と欧州旅行のホテルの夜、詩を作りたくてトイレに籠もったら奥様から、明日があるから早く寝なさいと怒られたのです。宋の時代、梅を妻とし鶴を子とし一生独身で過ごした詩人林逋ほど詩が上手くならなくてもいい。詩より奥様が大事に極まっているではないですか。この第三句と第四句は主語・述語の位置が照応する対聯を成しています。第五句と第六句も同じです。又この四句を削った前後の四句で絶句が成立します。

 つぎに大沼千早さんの五言律詩『題中川』(中川に題す)を紹介しましょう。大沼さんは幕末明治の詩人大沼枕山の末裔です。まだ修行中ながら湛える詩情は流石です。

  中川江上路, 中川の 江上の路,
  水面暮時横。 水面には 暮時横たえぬ。
  指呼船番址, 指呼なせり 船 番ぐ址,
  仰看雁過聲。 仰ぎ看る 雁 過ぎる聲。
  敲詩知筆硯, 詩を敲き 筆硯を知り,
  袖手笑斯生。 手を袖に 斯生を笑う。
  再建資料館, 再建の 資料の館,
  今傳隔世情。 今に傳う 隔世の情。

評:前半に祖父の面影と重ねての懐古を述べ、後半を平成の世に移し、前後併せて自分の心を映し出しています。