平成7年の記事
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秋夜雑感 松戸市 外山翠華 (女流詩家)
作詩安分渉多年 破壁書中覓聖賢
又値氷心千古意 寒燈親處楽陶然
詩を作し分に安んじ多年に渉り 破壁の書中に聖賢を覓む
又た値う氷心千古の意を 寒燈親しき處 楽 陶然たり
雲谷寺 徐州市 鍾興群
重巒畳嶂景通幽 古樹清泉繞寺流
縹緲烟嵐谷隱寺 相思万縷韻悠々
重なり重なった峰峰は、静かな佇まいを見せ、古木に覆われた泉は寺を巡って流れる
遠くに棚引く煙は谷の寺を隠し、思いは果てしなく韻は遥かに
散花塢 徐州市 鍾興群
百里黄山百里妍 散花塢里枕花眠
林喧春瀑紅霞動 疑是瑶池落九天
行けども行けども美しく、散り花の塢里に花を枕にひと休み
林は騒がしく、春の水音、花咲き乱れ 此処はひょっとしたら天上界ではないのかな
黄山は日本人観光客が屡々行くところ、百里万景尽く美しきところの由、作者は江蘇省徐州市の教職者、選者に寄せられた黄山百絶より掲載
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驚悉神戸地震寄松戸友人中山榮造先生
砌夜夢魂驚幾回 新聞一則響沈雷
縱然松戸非神戸 能解憂心誰餘哀
神戸の地震に驚いて、松戸の友人中山榮造先生に寄せる
夜のしじま、うたた寝の夢が破れて幾度もはっとし、はじめに新聞を見て、体が震える思いです
松戸は神戸とは違うと言っても、どうして心配せずに居られましようか
夢魂驚 白居易 長恨歌
九華帳裏夢魂驚 うたた寝の夢が破れて、ハッと胸を騒がすこと
D 作者は浙江省黄岩市 黄岩詩詞学会主編
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友と連れだって天鷹山に登れば、蒼い山は鵬が翼を広げた如く、九つの陸を覆い被さる如く
夜泊珠江 桂林 李育文
高楼林立接天河 夜泊珠江好景多 両岸華燈光六色 一船歡夢壓清波
都会の大河であろうか、ビルの明かりが川面に映り、私は其の光輝く波間に身を置く
黄花崗瞻仰先烈 桂林 李育文
刀光剣影氣軒昂 朶朶黄花弔國殤 赤幟弾痕昭大地 千紅萬紫満春城
国難を救った英雄、皆に讃えられ、今静かな春の中に眠る
乙亥新春喜賦 桂林 李育文
怒放紅梅燦百川 生機勃勃邀新年 一城春色濃于酒 醉得詩人詠興酣
明るい希望に満ちた新年、新春の酒を飲み其の思いに耽る
作者紹介 李育文 中華詩詞学会理事、廣西詩詞学会副会長、桂林詩 詞楹聯学会会長。
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春の宵は一刻が値千金だ、花は匂い月光に陰を作る。
高楼から笛の音と歌声が微かに流れ、庭にはブランコが静かに佇む。 この詩は中国人と同様に、私たち日本人の心を捉えて離しません。
両国の人がこんな文化を共有できるのは何と素晴らしいことでしょう。
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注 日本漢字がないので原文とは多少異なります。
西山佛刻 桂林 蒋菁
海伝釈教盛西山、造像摩涯遺大観。
数百燈龕環壁立、孤高一派樹南禅。
海 釈教を伝へ西山盛んに、摩涯に像を造りて大観を遺す。
数百の燈龕 壁を環りて立ち、孤高の一派 南禅を樹つ。
桂林西山佛刻並為桂林勝景之一。伝説仏教伝中国、有陸路北禅、海路南禅之分。
詩吟神風流匡風会創立二十五周年 桂林 唐 甲元
振鐸扶輪春復春、艱辛創業汗濡巾。鮮花吟道紅如火、芳草騒壇緑似茵。
漫囀鴬喉傳友誼、豪揮椽筆掃硝煙。引吭一曲歌中日、相好千秋心蹟真。
注 神風流の祝賀に対し遠地中国からのお祝いの詩である。
作者は広西省桂林 桂林詩詞楹聯学会編集主任
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碧波が朝露に映り、楼台は水に斜めに影を落とす。
花が乱れ咲く春の小径、二三の蝶は盛りを過ぎた花を啜る。
故郷行
依山傍水起楼台、故里村遷躇足猜。杜宇多情揮似識、声声喚我這邊来。
久しぶりに訪れた故郷、私の情や如何に
不如帰を登場させ、うまく代弁させる。
詠梅
新歳梅知早、隆冬報訊開。思春情意切、踏雪送春来。
春は梅とともに来る、梅は春とともに来る
詠蝉
知了知多少、高棲自誇知。胸中幾滴露、日々費嘶啼。
知るや知らずや、蝉のこの様な生き方を
作者簡介
中華人民共和国安徽省六安市 張明六
安徽省詩詞学会 中華詩詞学会 全球漢詩聯盟総会会員
著作 愚叟詩選
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臨江仙 西湖晨靄 武漢 傳占魁
天幕軽紗薄霧、満湖意緒綿々。 悄然浮動走漁船。 許仙何處覓、隠隠断橋邊。
最是含苞荷睡、清風柳曳絲牽。 烟亭細語漲飛檐、青雲人面吻、邂遇自随縁。
今回は広東省に有る広州詩社「詩詞」掲載作品の中より採用した。
詞と言う韻文作品は、日本には余り紹介されていないが、リズムが柔軟で情緒に富み、日本人にしても却って馴染みやすい感がある。
中国での作品は、詩よりも詞の方が多いと伝え聴き、何故日本に取り入れられないのか不思議な感じもする。
作品の最初に書かれる「定風波」や「臨江仙」は詞牌と言い、リズムの名称で、阿里山や西湖の朝靄が詞の題である。
阿里山に登れば、緑滴り、嵐風が駆け抜け、澤の水は冷たく、、、
西湖の朝は靄に包まれ、漁船が走り、又覗けば壊れかかった橋が、爽やかな風は柳の糸を吹き、、、、
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註 北山乃此次訪問日本小松市之名山
訪日団が日本小松市に来たときの感想を綴った詩歌。
桂林山水旅遊餘夢幻漓江之夜。桂林 張 開政
夢似漓江江似夢、秀山如畫畫如山。有情有意青羅水、若敢若癡碧玉簪。
夜霧披来欣欲酔、華燈初上興猶酣。荊關妙筆描難盡、四海魂牽一幻川。
註 唐代韓愈詠桂林名句、「水作青羅帯、山如碧玉簪。荊関、中国古代 著名山水畫家荊浩和関全」
林立するトンガリ山と悠然と流れる漓江、景観を頭に描けば、字面を読んだだけでも凡その意味は理解できよう、訓読はかえって煩わしいくらいだ。
作者簡介 中国廣西区書法家協会副主席、桂林市書法家協会主席、桂林 詩詞楹聯学会常務顧問、桂林名書法家、名詩人、曽四次訪問日 本作詩書展出、任桂林市人大常委会副主任。
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菩薩蛮 記夢 張 奇慧 女士
夢中誰解悲歓意、兩情脈々不得語。一夜雨声寒、哀箏和涙弾。
天涯携手処、悵悵失帰路。従此莫情愁、身体恨未休。
詞の作品を紹介しよう、難しい文字や言い回しがないので、文字を追えばおおまかの意味は理解できるので、敢えて読みは省く。
此の作品を内容より見ると、歌謡曲の様な内容で、中国の歌謡曲も詞牌名が書かれている所を見ると納得が行き、編者の下手な解釈より、歯切れの良い言葉に置き換えてみては如何でしょうか。
リズムの設定は詞譜と云う底本が有って、其れに文字を埋めて行く、またの名を顛詞とも云う謂れである。
最初に書かれた
采桑子や菩薩蛮は詞譜、即ちリズムの底本の名称で「詞牌」と云い、其のあとに書かれた文字が、作品の名称である。
作者簡介 中国北京市在住の女流詞家 張 奇慧 女士
中国社会科学学院文学研究所古代室
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漢詩の講習会など、日本で提供される作品の殆どは、古典を題材としているが、現代の人の作品にも面白いものは沢山ある。
今回の作品は、一句の中に花と月の文字を織り込み、趣有る詩を構成している。
中国人にしてみれば、漢詩は、数ある韻文学の中に一つに過ぎなく、日本の詩歌の様に、生活に溶け込んでいるものである。
編者の下手な読みはかえって趣旨を損ねるの遠慮しよう。
作者簡介
中華人民共和国安徽省六安市 張明六
安徽省詩詞学会 中華詩詞学会 全球漢詩聯盟総会会員
著作 愚叟詩選
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銭塘観潮 北京 賀敬之
壮哉銭江潮、小覧亦開懷。確知潮有信、相期高潮來。
観潮 毛沢東
千里波涛滾々來、雪花飛向釣魚台。人山紛贊陣容闊、鐵馬從容殺敵回。
咏銭江潮 江蘇 丁輝
澎湃奔騰幾万旋、中秋三日浪生烟。海門一出銀針細、雪嶺玉城忽接天。
甲戌八月十八日海寧観潮 杭州 毛谷風
倒海翻江挟巨雷、胥涛千古有余哀。世間守信唯潮水、白浪如山動地來。
太陽、地球と月の三者間の引力のなせる業として、中国浙江省の銭江潮は有名で、天下の奇景と賞せられる。 海寧にある詩詞社が「当代銭江詩詞選」を編者に恵送されたので、それより採録した。
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一 賀詞
賀蘭山下聚群英 旧友新朋韵墨情 西夏当年黄礫地 銀川此日緑蔭城
蘭山の下に群英聚るを賀し、旧友 新朋
韵墨の情。西夏当年黄礫の地、銀川此日緑蔭の城。
烽烟已熄笳声喜 民族相親舞歩軽 楊柳春風榮漠北 陽関内外聽流鴬
烽烟已に熄え笳声喜び、民族相い親しみて舞歩軽し。楊柳春風漠北に榮え、陽関内外流鴬を聽く。
二 憶秦娥 辺塞古今吟
笳声咽、玉門鉄馬陰山血。陰山血、胡塵漫巻、戎楼凄絶。
而今塞北烽烟歇、駢鼓百族団結。欣団結、天山春柳、賀蘭秋月。
葦笛の声は咽び、戦険しき玉門関。戦険しき、戦場の塵は舞い上がり、敵陣の楼は壮絶たり。
今では塞北にも平和が訪れ、合わせ打つ鼓の如く百族団結す。団結を喜び、天山の春柳、蘭秋の月を賀す。
D 一二月に桂林の詩友唐甲元老師より、桂林詩詞の恵送を賜り、其れ より老師の作品を掲載する。
暫く選者の下手な読みを省いたが、本稿では、律詩には訓読を次の 詞は意訳を試みた。
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