漢詩詞新聞14 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 topPage

14-2/17
 今年は午年、馬の付いた文字はとても多い。
秋夜月 祝賀午歳新禧戯賦五韵三十六馬
  駸騨闖駱騒驪,
  速く走る白き銭斑の馬 不意に現れた黒きたてがみの馬 騒ぐ黒馬、

馭驍騎。
強き馬を御して騎る。

駐馬瑪覊驗驀,
馬を止める美しき轡 乗りこなす証、 

駻驅騏。
暴れ駆ける青黒の馬。

  馴駢駟,
  馴れ並ぶ四頭だて、
  
驩駈驥,
喜び駆ける優れたる馬、

騙碼騅。
美しく青黒の馬に飛び騎る。

隲駭騾驢駝騁,
乗りて驚く騾馬驢馬駱駝の馳せるを

驫駒馳。
多くの馬が馳せる。

 


14-3/14
 今回は「詞」の作品を紹介しよう。
采桑子 別離       市川 秋山北魚
※ 空閨淡掃情旋轉,整整蛾眉,細細腰肢。新恨舊愁久別離。
  庭隅一葉稍留緑,彩不知移,色不知衰。開封相通連理枝。
※独り寝の薄化粧、心は千々に乱れ、整った眉、細いからだ。久しく別れ別れ、新たな恨みと、旧い愁いと。
 庭隅の一葉やっと緑を留め、色が変わるのも知らず、色が衰えるのも知らず。便りを開けば心は堅く結ばれて。
※:中文は2文字下げる。日文は1文字下げる。

采桑子 夜思 市川 秋山北魚
  昨宵聴雨同衾褥,言巧誘躬。蕋蕋無窮,展轉無眠夢夢通。
  今宵聴雨孤衾褥,害?熱躬。縷縷難窮,獨酌長歎夢不同。
 昨夜雨を聞き過ごした衾褥、言葉巧みに躬を誘う。奥底に窮まりなく、ほぐれつつ眠れぬ夜を過ごしつつ。
 今宵雨を聞く独り寝の衾褥、恥ずかしさに身が火照る。躬の収まり難く、独り酌み長く歎くも夢同じからず。

采桑子 閨怨 市川 秋山北魚
  深窗錦帳吾憐我,恋慕漫々。怨慕漫々,別涙頻頻一語難。
  霜風凛々浮雲散,弦月光残。孤鳥聲残,老蛬啾啾一樹寒。
 中国文学は文字が同じなので、文字面を読めば概ねの意味は理解できるでしょう。編者の日文もぎこちありません。読者諸賢の歯切れの良い日本語に期待します。

 

14-4/5

 今回は、喜寿の祝いに親族が寄せた作品を紹介しよう。
 中国湖南省新晃縣第一中学 關一先生は、今年午年で七十才、長く教師生活を続け、喜寿の祝いに詩集を出版した。
 世界各地の詩友から祝いの作品が寄せられ、小生も一首を奉呈した。原稿料の代わりにと三百ページの大冊が送られた。
 まずご本人の作品を紹介しよう。
馬年抒筆 2002年元旦・冷木樹 中国湖南省新晃縣第一中学 關一
昆侖雄峙劍雲鳴,萬馬奔騰紫気蒸。入世逢春華夏壮,環球申奥我們贏。
足壇出綫圓千夢,納米披曦破五更。九鼎旗揚三代表,關河處處太平聲。

 喜寿の祝いに、奥さん、ご長男、叔父さん叔母さん等々、
寿関一吟長七秩

賀夫君古希初慶  夢嵐(奥さん)
古希共慶憶前縁,風雨同耕故里田。功惠三千君尚健,吟龍嘯虎楽遐年。

関平(ご長男)
風光好、往事総難忘。院住病危承護理,成材輩仗操忙。共祝寿而康。

関月芝(ご長女)
授読参工楽育甥,助《孝友》尽親情。古希同慶詩潮湧,更有雄関路萬程。

昊人有(次女)
啓兄古訓義堪珍,況是光前裕后人。慈幼尊親聞四舎,挙杯合慶寿長春。

関月梅(三女)
歌!光大門庭喜気多。無私顧,弟妹舞婆沙娑!    喝!寿酒千?合啓哥。長江水,万里涌金波。

評:日本にもこの様に文化程度の高い家庭がどれほどあるのだろうか?

 

14-5/11

  わが苑に梅の花散るひさかたの天より雪の流れくるかも
 この歌は万葉集にのる歌で、この作品を七言絶句に改編した作者が居る。
七言絶句  観桜
清風習習四方游,花片霏霏如雪流。
廉潔桜姿雖最好,誰知情怨更深愁。

 詩歌の構成は、文字数と大いに関係がある。文字数が多ければ、それだけ余計な情報が記載される事となる。或いは冗長に成らざるを得ない。
 依って、絶句で作るなら、五言絶句が多めだが、差し当たって適当だろう。前掲の作品を下敷きに書き換えてみると、句頭の二文字を省いて、

五言絶句  観桜
習習四方游,
霏霏如雪流。
桜姿雖最好,
情怨更深愁。

 これで大分本歌に近くなった。然し、絶句への書き換えよりもっと適切な「瀛歌」がある。この詩形を用いればもっと本歌に近くなる。

瀛歌 観桜
清風游。
花片霏霏,
如雪流。
桜雖最好,
誰知深愁。

註:五言絶句・瀛歌とも、原作の七言絶句から文字を拾い出しただけです。


14-6/5
 詩文は概ね文字の組み合わせ、句の組み合わせから成り立っている。七言絶句とは二十八字の組み合わせから出来ているのだから、此処に使われている文字を組み合わせれば、おおかた同じような内容の作品となる。
此処で皆さんよくご存じの「涼州詞」を俎上に載せてご披露しよう。

涼州詞 王翰
葡萄美酒夜光杯,欲飲琵琶催馬上。
酔臥沙場君莫笑,古来征戦幾人回。

 これの頭の二字を取り除けば、五言絶句になります。
美酒夜光杯,琵琶催馬上。
沙場君莫笑,征戦幾人回。

「詞」に一六字令と言う形式があります。
杯。
欲飲琵琶催馬上。
君莫笑,
征戦幾人回。

 新しい詩形として「漢俳」が有ります。
美酒夜光杯。
酔臥沙場君莫笑,
征戦幾人回。

俳句に対応した「曄歌」が有ります。
夜光杯。
酔臥沙場,
幾人回。

短歌に対応した「瀛歌」が有ります。
夜光杯。
欲飲美酒,
催馬上。
君酔莫笑,
征幾人回。

 漢詩詞を作るのは難しいという方でも、種本から派生させるのだったら、一寸器用な人なら誰でも出来ます。この場合は剽窃の誹りを受けぬ爲に「戯擬賦瀛歌涼州詞」などとすれば、何処でも通用します。

 


14-7/10
 今回は「楹聯」を紹介しよう。中国旅行をした人なら、あっちの入り口にもこっちの入り口にも、大は宮殿や廟祠、小は散髪屋や食堂、個人住宅まで、有りとあらゆる所の入り口に、左右対称の文字が書かれているのを見た事があるでしょう。此を楹聯(えいれん)と言います。此はただの看板文字でも駄洒落でもありません。れっきとした文化程度の高い表現様式なのです。
 これは、出来合いの作品を使用するのでは無く、訪れる人を歓迎する爲に、その屋の主が思いを込めて作るのです。此処に淅江省海寧市許村鎮の曹勤立氏の作品を紹介しよう。
慶百歳 琴棋書画優当年
感盛世 愛国愛民暁兒孫

祝離退 親朋満座敬師高
論教育 桃李芬芳皆賢達

新婚已是舊知音
互教同窗相識早

無媒無酌自相愛
嫁贅同心比翼双

昔日親離悲肺腑
今朝眷驟楽胸堂

 大型の屋外広告看板にも中国では楹聯が書かれています。日本の看板も、ただ売り込みばかりでなく、少しぐらいは、文化の香りが欲しいものです。

 

 

14-8/10
 詩歌と言うと、綺麗で立派な事ばかり詠うと思いがちだが、そうとは限りません。今回は誰にとっても最も身近で付き合いの長いお方を紹介しよう。
お便所と便器です。
便所便器其一
村墟陋屋有閑間,半壁半窗一白鞍。
私の家には静かな部屋があります、とっても狭いところで、白い跨ぐ物があるのです。
朝晩須騎同飯客,湯風随意太平歓。
朝晩みんな同じ飯を食っている者が跨ぎます。ウオッシュレットで気分最高。

陶瓷只有熔変事,色形参差工匠艱。
陶磁器工場でちょっとの焼き方と色具合で色々な物になります。

閉戸模糊窺水面,君吾舊知布衣看。
戸を閉めてぼんやりと水面を見ると、あんたと私は古馴染み。

便所便器其二
獨坐真清福,關門共一天。
独りで坐ると眞の幸せ、戸を閉めると独りの世界

朝朝専浄臓,日日互争先。
(錯綜對)毎朝先を争って、毎日綺麗に掃除して

夜半看童懶,清晨有母賢。
夜中には怠け者の子供、朝早くは母さんが来ます

誰知嫁婦涙,想得奉親艱。
お嫁さんがトイレで泣いていたのを知っていますか?親孝行は大変ですね。

不恨同輩誉,緬思工廠煙。
陶器仲間を恨みません、製陶窯の煙を思い出します

私誇千古器,就任自平安。
私は昔から大事な器、便器になってとても幸せ

 

 

14-9/10
 この頃、敗戦の後遺症が現れ始めたのか、思想と道徳の区別も付かぬ儘、どこかの國の国是、「法規を後ろ盾に、損得勘定と力は正義なり」が浸透して、刺々しい世の中になった。
 過去があって今がある、と言うことを再認識しなければ成らない。今も一生懸命に生きているのだが、過去の人々も一生懸命に生きていたのだ。過去を否定することは、今を否定することにも等しい。

七言律詩 覇権
列強覇業互争先,隣国懐柔迫砲煙。
列強の覇権、軍事力の小さい國は、植民地の名の下に、搾取を欲しいままにされ、隷属させられた。

左手聖書右端銃,人民阿片吏遮天。
覇権の方法と実態

須疑富裕即英傑,勿謂饑窮是賤拳。
力は正義なのか、貧困は、邪悪なのか?テロの犠牲者は、奉られ、報復攻撃の犠牲者は誤爆で済ませるのか?

役役専財誰悟理,暖衣飽食幾經年。
物欲ばかりで、物の道理を考えた事があるのか?暖衣飽食で、物事の道理を忘れたのか?

 

五言排律 少年兵
二八憂家國,丹心解柳枝。
十六才、日本同胞を思い帰らぬ覚悟

親朋蕭酌酒,送餞怨争危。
別れの杯も、心が重い、国難が差し迫る。

弟妹堅拉袖,啼哭問歸期。
弟妹は、袖にすがり、何時帰るのと、せがむ

伏屍童臉士,胸口妙年姫。
屍は未だ童顔、胸には愛する人の面影か。

勿忘思郷意,衣食暖飽慈。
真摯な思いを忘れるな、暖衣飽食は誰の慈なのか。

 

 

14-10/13
 日本人が俳句を作り、中国人は漢詩を作る。これと反対に、中国人が俳句を作り、日本人が漢詩を作る事も出来るのである。
 俳句の作者、李佩雲女士は北京大学の教授で有る。対する日本人は、松戸市常盤平在住の高橋香雪女史。互いに詩詞の交流相手で有る。

曄歌四首 翻作李佩雲女士的俳句原玉

原玉 五老峰花びら開く夏空に
曄歌 五老峰、花弁好開、夏期天

原玉 近づけば羅漢の座像新樹みち
曄歌 接近了、羅漢座像、新樹中

原玉 満目の雲海の底島一つ
曄歌 看四面、島有一個、雲海底

原玉 見おろせば湖を縁どり夏燈
曄歌 立山巓、燈火點點、夏湖邉

 曄歌は俳句の漢字書き定型詩歌である。俳句と曄歌を読み比べると、殆ど同じ内容である。俳句は漢詩に訳せないと謂う人が居るが、そんな事はないと謂う事が御納得頂けた事と思う。



14-11/1

 今月は、松戸市の市議会議員の選挙があります。

 選挙記事を掲載するので、吟社のページは遠慮致しました。

 

14-12/1

 11月8日に中華詩詞学会理事の林岫・鄭民欽両氏を招聘し、講演会と会員の旅行とを兼ねて親睦の旅行を行った。
 まずは、書道家でもあるので、成田山で丁重な接待を受け、明日、中国でも知られているそうな「寅さん」の柴又帝釈天に参拝。
重訪成田書道美術館緬懐照碩貫首猊下  林岫
紅葉依然好,庭園百様幽。紅葉は依然として好く,庭園は百様幽なり。
故人随月去,遠客忽傷秋。故人は月に随いて去り,遠客は忽ち傷秋す。

帝釈天題経寺題瑞龍松       林岫
古苔斑駁瑞龍松,現出金剛自在容。古苔 斑駁 瑞龍松,現出す金剛自在容。
看得千年真一瞬,分香蓮宇坐禅風。千年真の一瞬を看,分香蓮宇禅風に坐す。

講演も終わり共々一段落。会員一同と共に、東北新幹線で宮城県松島に行く。

随葛飾吟社詩友同游松島乗舟即興 林岫
舟牽雲水秋痕寛, 舟は雲水を牽きて 秋痕寛く,
佳日融融認作春。 佳日 融融 作春を認む。
緑茗?香欣款客, 緑茗 香を?み 欣びて客に款り,
白鴎争食繹親人。 白鴎 食を争い 繹りて人に親しむ。

随行林岫女史再訪東北大学魯迅学舎   今田 述
蔦蘿彩葉百年紅,魯迅学焉求始終。奈熄医身随癒国,当今郷客訪心同。
蔦葛は百年の紅を染め、魯迅は学舎に心を決める。
どうすれば國を癒す事が出来るのか?同郷の旅人も彼の心を訪ねている。

 

ご購読眞に有り難う御座いました。又明年も宜しくご購読の程お願いを申し上げます。

読者諸賢の益々のご健勝とご幸福をお祈り申し上げます。

編集子 拜