平成15年 漢詩詞新聞15 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 topPage

一月

謹賀新年

 松戸市民新聞に漢詩欄の掲載をお願いしたのが平成6年でした。それからもう今年で9年目になりました。松戸市民新聞は月刊紙で10萬部の発行部数が有ります。この頃は少し漢詩のことが話題に上るようになりましたが、9年も前では、状況が今とは全く違いました。
 その様なときにあって、貴重な紙面を漢詩詞のために割いて下さった社主を始め、編集に携わる皆様方の英断に、今改めて感謝を申し上げます。
 松戸市民新聞の末永い発展を祈念し、読者諸賢のご要望に幾らかでも応えられるよう、努力致す所存で有ります。
               編集子 拜

註:このPageは月刊紙(発行部数10萬部)松戸市民新聞の漢詩詞欄掲載の原稿記事です。

 

 


二月

15-2/15
 今年初めての稿です。ことしは身近な作品を紹介しながら稿を進めて行きたいと想います。
 小学生が背負っているのは何か?其れは親の期待がぎっしり詰まったランドセル。学習塾ではテストの成績によって席順が換わるそうです。
   學習塾    横浜市  山田鈍耕
  稚気孫娘學塾通,  稚気の孫娘 學塾通い,
  浮沈席次琢磨功。 浮沈の席次は琢磨の功。
  何憐父母猶多夢, 何ぞ父母の猶多き夢を憐み,
  深夜書燈三尺童。 深夜の書灯 三尺の童。
未だ灯りが点いているよ!老夫婦の面持ちが目に浮かぶ光景です。

 歳を重ねても、生身の體、心ぐらいは躍らせます。私は年輪を重ねた梅の古木。また鶯が来てくれるかな!おお恥ずかしい!いい歳をして。
老梅   市川市 秋山北魚
枝頭漸綻僅香生,莫等黄鳥艶麗聲。
枝頭漸く綻びて僅に香を生じ,等つ莫れ黄鳥艶麗の聲を。

歳暮寒寒君信絶,羞憂老幹徒怡情。
歳暮寒寒として君が信は絶え,憂い羞ず老幹徒に怡の情を。

偲歌二首
窗前微月,半酔半醒。一杯濁酒,慰晩齢。
机上滴涙,燈下含情。杯盆狼藉,爲誰横。

 

 


三月

15-3/15
 昨今の国際情勢には厳しい事が多く、現実を弁えてこそ理想が実現するのに、安易な理想に惑わされることも多い。
当今即事  坤歌一首 田村星舟
全球危。理想現実,反戦詩。

 

原子力発電所を見学しました。何かと問題の多い施設ですが、これも必要悪でしょうか?注意に注意を重ねる事が肝要でしょうか?

題参観原子能発電站 田村星舟
白墻大厦海邉雄,防壁五層鉛鐵工。指呼目前核反應,鬼神安静就新功。

 

 何処に危険が有るか解りません。一寸目を離した隙に可愛いお二人のご兄弟が厳寒の深林に迷い込みました。多くの郷人が懸命の捜索を試みました。

可悲傷垂髭姉妹遇到“雪女郎”禍   東京 田村星舟
郷人曰、孩子們春天来臨間稍微睡着。春天的女神訪問樹芽出来的時候一定弄醒眼。
鳳雛姉妹五八娘,遇見山中“雪女郎”。眷属凋残已干泪,郷人合掌等春陽。

 

 心和ませる事もありました。多摩川に“玉ちゃん”が現れました。
可愛海驢“阿玉”  東京 門馬清明
海驢三尺自何來,一顧双眸爽気開。衆人偸閑聊入夢,颱風一過忽囂埃。

 

 飼い犬も我が家の一員です。子供の着古しを着せようかしら!

俳句  初霜や老犬に古着ゆずりけり  門馬清明
曄歌  初霜來 譲給老狗 舊衣服  東京 門馬清明

 

 寒さの中にも、一日ごとに春の訪れが感じられます。

曄歌二首      東京 田中春水
亦可愛,二月村園。鶯作賓。
鳴鶯晨。養拙酌酒,共酔春。

 

 


四月

15-4/15
 誰でも病気や怪我の時は看護婦さんのお世話になる。作者も転倒して看護婦さんのお世話になった。看護婦さんの笑顔は何よりの良薬。
  寄看護師 東京都 齋 游子
看護所為無尽蔵,理汚給薬亦繁盛。改嘆急尚不忘笑,和痛臨機照病堂。

 

 花見の季節、桜前線が東北地方に去ると、今度は、躑躅が咲き乱れる。
池畔賞櫻花吟句     東京都 石倉鮟鱇
天晴花發人酣醉,鶯囀風柔思淡然。悦目櫻雲映鏡水,搖脣野老誕詩仙。

 昼間の桜は、絢爛を競うが、夜桜は更に艶っぽさが加わって、亦一興。
春思 東京都 石倉鮟鱇
月落暗香流,花開風不休。無眠聴猫語,窓角吸煙愁。

 

 統一地方選挙が終わったばかりだが、作者は神奈川県の人
  松沢成文君辞職国会議員参加了神奈川県知事選挙 神奈川県 萩原艸禾
愚賢徒議是歟非,晩雨朝雲夙志遠。國士敢離牛後地,猶望鶏口目前機。

 

坤歌・二首 千葉県 高橋香雪
月半輪。一酔絆倒,老大身。
花綻時。喜怒哀楽,鼻綻期。  花綻ぶ時、私の鼻は花粉症

 

曄歌・三首 東京都 石塚梨雲
桜花塵。獨坐閑窓,易憶人。
萬家春。月落花理,酌酒頻。
梨花新。双鳳千金,坐草茵。

 


五月

15-5/14
 今回は楹聯を紹介しよう。中国の写真や映画などで、家の入り口の柱や、門の柱に何やら文字が書かれていたのを見たことがあるでしょう。この句は二本の柱で一組になっている「楹聯」と謂う文章作品なのです。個人の家なら、主の、好きな言葉などが書かれていますし、公共建造物なら、施設の由緒などが書かれているのです。

 また、商品の立て看板や小さな包み紙でも目にすることが出来ます。程度の高い文学作品が、身近な生活の中に溶け込んでいるのです。

 また、建造物に書くだけでなく、作品としての楹聯が有ります。そして楹聯は互いに對仗を為して居るのです。二句一組で文字面以上のもっと深い意味を表しているのです。

鳥當漁洞峡聯
峡溢清泉滋沃野;洞呈瑞靄遨游人。

峡溢の清泉、沃野を滋し;洞呈の瑞靄、游人を遨う。

 

重陽老人節咏菊聯二?
迎旭芳姿,黄花弄影;経霜傲骨,晩節尤香。

旭を迎える芳姿,黄花は影を弄す;霜を経る傲骨,晩節、尤も香る。

 

黄花紫蠏,将飲重陽酒;熾火清泉,同嘗菊花茶。

黄花、紫蠏,将に飲む重陽の酒;熾火、清泉,同じく嘗む菊花の茶。

 

荷紅氷結,待綻花枝盛夏;李艶桃繁,惟斯教苑長春。

荷紅、氷結,花枝は盛夏に綻ぶを待つ;李艶、桃繁,惟だ斯れ苑の長春教む。

 日本でも、もっと俳句や短歌を実生活に取り入れて欲しいものです。


六月

5-6/11
 身の回りのことと言うと、ご自分の日々の生活、殊に病気の時など、白い天井を眺めていると、思いは巡る。

得病別悪習   凱風 林 久仁於
病を得て悪習に別る

癌巣竟冒我身中、大病偏馮薬石功。
癌巣は竟に我が身中を冒し、大病は偏に薬石の功に馮る。

久住医家厳法下、無端絶得吸煙風。
久しく医家に住す厳法の下、端し無くも絶え得たり吸煙の風を。

 

別烟草以後  凱風 林 久仁於
烟草に別れし後

誓決除殃半歳過、揚言不惑誘騎多。
除殃を誓決し半歳を過ぎり、揚言惑はず誘騎の多きに。

夢魂仍弄一包草、頑癖済難如躱何。
夢魂仍を弄す一包草に、頑癖済い難し躱何の如きを。

 

老骨春    凱風 林 久仁於
老骨の春

頽垣寒鳥未吟詩、樹杪堅芽得意遅。
頽垣の寒鳥未だ詩を吟ぜず、樹杪の堅芽意を得ること遅し。

却訝地球温暖禍、霜頭遊眼百花肌。
却って地球温暖の禍を訝り、霜頭の眼は遊ぶ百花の肌に。

評:看護婦さんに見とれるほどの健康恢復おめでとう御座います。


七月

15-7/14
 とても簡単な詩形で漢俳という詩形がある。俳句に似て漢字五七五で綴るのです。勿論一首で成り立つ形式ですが、少し工夫を凝らして、八句構成の連作を紹介しよう。

 連作に更に工夫を凝らして、尻取りのようにグルグル回っていて、最後の句が最初の句に繋がるのである。これを聯環体といいます。

漢俳聯環体 野田運河残影  市内 今田菟庵

其一 東京祝夙縁,江都開府四百年,繁栄起因川。

其二 起因沼沢地,康公鼓舞群臣萎,干拓支平治。

其三 支平洪水憂,利根大河策東流,岐関閘門留。

其四 閘門朝夕過,東西南北帆影夥,名残江戸河。

其五 江戸産醤油。利根江戸跨川求,運河図穿丘。

其六 図穿開拓遅,鉄道網羅已到枝,時流逐波移。

其七 逐波残影留,芳叢両岸雅人休,緬想欧州游。

其八 欧州運河多,閑民購船旅寝波,嘗担東京河。

 

 

 とても穏やかな様子を詠った作品です。春の穏やかな日の縁側でのこと、猫は昼寝を貪り四つ足を伸ばして腹を向けて寝ている。紅いオッパイが印象をそそる。旧来の作品に見られない手法です。

七言絶句 春日晴朗 東京都 田村星舟(女性)

冬去春來日漸長,隣家老梅萬枝芳。
冬が去り春が來て日は漸く長く,隣家の老梅は萬枝が芳しい。

猫貪午覚走廊角,舒暢四肢紅乳房。
猫は廊下の角で昼寝を貪り,ゆったりと四肢を暢ばし紅い乳房が。

 


八月

15-8/12
 中国人は世界中にいる。世界人口の25%と言うから、四人に一人は中国人と言うこととなる。カナダ、アメリカ、タイ、ベトナム、フランスの人々の作品を時々目にする。

加拿大(カナダ) 莫愛環
遙祭厳慈
携弟撫孤知幾年,肩担重任泪偸漣。
蕉風椰雨多労日,長大成才喜似仙。

 弟を連れて一人で幾年も重い任務に泪を落とすときもあった。芭蕉の風、椰子の雨、苦労も多かった。漸く大きくなってくれて、本当に嬉しい。

 

越南(ベトナム) 黄泰誠
春夜読易感賦
窗下夜清幽,春風任去留。観心潜物化,読易釈閑愁。
無欲終無悔,有求始有憂。問君爲底事,早白少年頭。

夜は静かで、春風は気儘に吹く。
心には物事の移り変わりを潜ませ、易経を読めば愁いを解き明かす。
無欲なら後悔もなく、求めると憂いが始まる。
貴方に尋ねよう、どうするんだ、頭が白くなり始めたぞ!

 

法國(フランス)  薛里茂
壮気蕩懐
撫巻吟哦気蕩懐,環球唱和盡英才。
未来再頌山川美,留得藝編壮鳳台。

 この人は、若い頃福建省から渡ったそうだ。苦労に苦労を重ね、現在ではシラク大統領と同席するほどの人物。盆景が趣味。

 


九月

15-9/7
 中國の詩というと、詩詞と言うジャンルもあり、自由詩と言うジャンルもある。日本人が知っている「詩」は概ね四角四面の古典詩だが、詞とは別に四角四面でない詩も沢山ある。

黒水岸 三首禄一 黒竜江省 重陽

黒竜江水流千里     黒竜江の水は千里に流れ
波浪濤濤 欲呑東升日  波浪は濤濤として 東に升る日を呑まんと欲す
忽然鴎散鷺飛尽     忽然として鴎は散り鷺は飛び尽す
汽笛如吼鐵輪馳     汽笛は吼えるが如く鐵輪は馳せる
一綫劃開萬里土     一綫は劃し開く萬里の土を
江南江北 中蘇両国地  江南と江北 中國とソ連両国の地
只恨難断無形綫     只だ無形の綫の断ち難きを恨む
使我目及身不及     我を使て目と身の及ばざるを

註:黒竜江省と言えば、中ソ国境のある地域である。鴎や鷺は自由に行き来できるのに、・・・・・・と詠っている。

七夕雨傾盆  黒竜江省 重陽

牛郎織女鵲橋會,
七夕落雨,
乃是激情泪,
而今天大雨傾盆溌,
激情當比往年倍。

人造衛星星進月宮,
寂寞嫦娥,
被接回人間,
牛女思凡情切切,
日夜奮宇宙飛船。

  牽牛織女は鵲の橋で逢い引き,七夕には雨が降る,乃お是れは激情の泪だろう,だから今年の雨は土砂降りだ,激情はいつもとは違うぞ。
  人工衛星は月宮進み,寂しげな月,人間界に接られる,牽牛織女の思情切なく,日夜宙飛船はまわる。


十月

15-10/12
 中華詩詞壇で、日本俳句に倣った「漢俳」が有ることは、俳句を嗜む人なら周知の事実である。だが、俳句を嗜む人でも「漢俳」を作り、鑑賞できる人は少ない。

 中國では、日本詩壇との交流を真剣に考え、「漢俳協会」が出来ている。日本の「○○協会」は私的な集まりだが、中國での「○○協会」は公的機関に準じているのである。勿論「漢俳協会」は準公的機関である。それ程にも前向きなのに、日本の詩歌愛好者が、読めない・作れない、では余りにも無関心にすぎる。編者の手許には多数の漢俳作品があるので、その幾つかを紹介しよう。

漢俳五首   湖南省長沙市 段樂三
吟長江三峡
三峡浪流長。千里江陵立画廊,雲天鷹自翔。

過水郷
百里走平川,水杉護路路朝天,天邉賞碧蓮。註:水杉;落葉の灌木

霧山
晨曦起霧烟,深谷高陵静漠然,落落似神仙。

林籟
風動竹彈琴,松林掩映葉蕭森,枝頭百鳥吟。

童泳
過野小湖叉。尻股条条裸体娃,驟浪濺晶花。

 


十一月

15-11/12
 世相が厳しい状況にあるとき、表だって抗議することは、躬の危険と隣り合わせである。この様なとき民衆は詩歌を抗議の手段として用いる。作者不詳の詩歌は、民間に流布し為政者の耳にも届くこととなる。今では日本でも中国でも言論は自由に成ったが、その作風は今日でも詩題の一つとして存在する。

警世詩五絶  吉林省 孫文起
星下
人間情性変,大地闊汚?。
秋樹結沙果,良心挂嘴邉。

月亮湖
月光醉湖中,葦浪視舟程。
?火吹寒意,鼾聲影伴星。

山東省 張嘉祥
有理言自壮,負屈聲必高。
國正天心順,官清民自安。

日軍“”九一八 事変 貴陽市 石興徳
少帥官兵三十萬,東北同胞三千万。
遼東日軍二萬七,少帥不放一銃弾。
日軍占領十四年,東北同胞多苦難。
少帥功過與是非,應請岳飛當裁判。
註:近年,許多詩人贊場張學良是著名抗日将領,有感而作。

 

 


十二月

15-12/10
 日本人が言う漢詩とは、漢字で書いた詩歌を言う。勿論それに相違ないが、中国人が言うところの意義は日本人とは多少ニュアンスの違いがある。

 日本人は、簡単に中國三千年と言うが、中國という国家はとても若い国家で、三千年どころか、今年でやっと五十二年ほどの新生の国家なのである。今の中国人が言うところの「漢」とは、「漢民族」を意味する。即ち漢民族の詩歌なのである。

 漢民族の詩歌には、日本と同じように「自由詩」も有る。日本人があまり挙げないのは、単に馴染みが薄いと言うだけである。此処に今月贈呈された詩集(夢里潮韵)があるので、巻頭の作品を紹介しよう。作者(氏名は草舎)は三十歳代の美しい女性である。

  潮郷女的夢  草舎
  海塘上 發現一群潮郷女
  躬着身子 鮮花持頭頂
  跳起歓楽舞姿 恭恭敬敬
  愿我老師
  幸福 富裕 莫桂月

 編者の独断で、訳させて頂けば
 人魚の夢
 岩礁の上 一群の人魚が現れた
 躬には身をまとい(人魚は裸です) 鮮やかな花を頭に載せて 
 はしゃいだ舞姿 恭しくも敬敬しい
 私の先生が
 幸福で 裕福で 長生きなさることを望みます。(あの世に逝かない)