漢詩詞新聞16 文化交流漢詩詞結社葛飾吟社 topPage
松戸市民新聞 平成16年
謹賀新年
一月は名刺交換会を掲載する月ですので、紙面の都合で、漢詩詞のページは遠慮しました。
日本人は叙景詩が大好きだ!山へ行った海へ行った!と景色を漢詩に纏める。漢民族も叙景詩は作る。
浙江省黄岩市教師専修学校と謂うから、上海の近く、黄岩市に有る教育大学の教授だろう。
龍游石窟 徐中秋
地下乾坤一窟奇,千年唖迷費猜疑。我為譲國偃王后,寧信斯民鑒石祠。
登江郎山一綫天
登山初山頂,一径石中通。
絶壁三千尺,愁雲九萬重。
仰望天有綫,回顧地無踪。
力盡担坪出,還須攀巨峰。
この作品は、山に登ってあっちこっちを見回した、その様子を書いただけである。所詮は外国語なのだから、どんな読み方をしても、内容が分かればそれで間違いではない。どんな読み方をしても、字の通りに読めば、さほど内容の間違いはない。
此処に興味深い問題があるので説明しよう。「絶壁三千尺,愁雲九萬重。」の句を見て、漢民族は大げさだから、三千尺と謂い九萬重と謂うと!解ったような好い加減なことを謂う人が居る。
これは漢詩詞のリズムを知らぬ人の謂うことで、漢語には、第一声調から第四声調までのアクセントの違いがあって、漢詩はこのリズムが厳格に決められて居るのである。
これを簡単には「平○ 仄●」と謂う。「●●○○●」「絶壁三千尺」で、○に相当する漢字が「三」と「千」しか無いのである。だから仕方なく「三千尺」に成ってしまうのである。たまには「五百」にしたい時もあるだろうに。
陳興君は中国人留学生で、彼は大学で勉学に励み、葛飾吟社にも時折顔を出す好青年である。
晴明掃曾祖陳経清墓 千葉県 陳興
年少南洋往,回首海天渾。黄檗帰僑隠,白雲終古存。
後來人未涙,前去水猶春。奮鬥家風在,謀生任子孫。
評:故郷の墓参り行った時の思い。「謀生任子孫」の句は儒教の精神を感じさせます。
二月十四日
春色無辺異九天,桜花古道美人顔。
感余孤独浮雲下,思汝紛繁流水前。
評:「無辺異九天」「孤独浮雲下」故国を離れて独り異境の地にある寂しさを表現しています。
駅中人望駅外花
風里読詩凝往魂,飛花又値一年春。
花開仍属今春事,花落愁如去歳深。
評:通学途中の情景だろうか?駅の外の花を看て、他国に留学する年月の移ろいを感じさせる。
酒後作
酒後欲眠灯忽点,床邊CD起歌声。
夜間長静看名月,我亦人生又一程。
評:枕元のCDが異境の寂しさを慰める。
注:現在では「CD」等の文字の使用は破格では有りません。
東葛市民新聞初稿 ご挨拶
この度、東葛市民新聞社諸兄のご厚意により、漢詩詞を掲載させていただき、誠に有り難く感謝に堪えません。
多くの方々は一様に漢詩は難しいと云います。中国人は日常に漢字を使っているから、小学生の連絡帳も漢字で書きます。当然の事ながら、小学生は詩を漢字で書きます。即ち漢詩です。中国の小学生が特別頭がよいわけではありません。日本で漢詩を難しくしているのは、易しい定形を用いないで、難しい定形を用いている日本人なのです。
日本の詩歌は概ね、俳句・川柳・都々逸・短歌の四定形ですが、漢詩の定形は、簡単なのから複雑なのまで、数千の定形が有ります。
日本人でも、漢詩の易しい定形なら、小学生は無理でも新聞が読める中学生なら出来るのです。然も、漢詩なら、この紙面で作った作品でも、世界二十五億の漢民族に通用するのです。このページを借りて、最も易しい漢詩の作り方と、中国各地から編者の下に寄せられた作品を紹介しましょう。
詩は心の内を映します。漢民族の作品を読めば、中国の方々がどのようなお考えなのか?も汲み取ることが出来ます。同様に日本人の作品を読めば、日本の庶民がどのような事を考えているのかが分かります。庶民がお互いに知り合うことが、国際交流の根底を為すのではないでしょうか?
葛飾吟社は漢詩詞を作り、漢詩詞を仲立ちにして、漢字文化圏との国際交流を図ることを目的とした、漢詩詞愛好者の集まりです。
葛飾吟社の活動内容をご案内する為にインターネットを活用しています。また投稿や質疑応答も出来ますので是非ご活用ください。また郵便による質疑も時間の許す限り受け付けますので、ご利用ください。
郵便=270-2261 松戸市常盤平5−14−25 葛飾吟社
URL=http://www.kanshi.org/ 葛飾吟社
URL=http://www.rihaku.jp/ 主宰個人
曄歌
漢詩詞で一番易しい定形です。曄歌の曄の字は、日+華です。これは日本と中華に共通する、橋渡しをする歌と云う意味です。
さて定形は、三字+四字+三字 で、十字で出来ている詩です。そして内容に規定があります。季節に関わる句を織り込むことです。
それでは作ってみましょう。五月の末は梅雨時です。最初の三字の候補と中の四字の候補と、最後の三字の候補を書き出してみますから、それらを適当に繋げれば、それだけで漢詩「曄歌」は完成です。インターネットが出来る人はご自分で投稿して下さい。出来ない人は、葉書を下されば、投稿欄に転載しましょう。
初めの三字 緑成陰。雨聲深。雨気侵。十日霖。只孤斟。又梅霖。新樹林。碧苔侵。半晴陰。雨聲侵。
中の四字 通宵読書,小斎日暮,閑人五月,破窗人坐,群蛙閤閤,天昏梅熟,煎茶読書,泥深靴没,思詩懐友,思君欲読,
終わりの三字 好弾琴。湿衣襟。又閑吟。寂寥心。鬱陶心。遊子心。一曲琴。三尺陰。小川潯。閑撫琴。
一首作ってみよう。初めの三字から「緑成陰。」中の四字から「閑人五月,」終わりの三字から「湿衣襟。」を選んだ。これで一首出来た。「緑成陰。閑人五月,湿衣襟。」同じようなことをすれば、次々と簡単にできる。
中国浙江省海寧市 虞志翔 無題
潮郷春正好,詩訊展新姿。神州紅爛漫,中華騰飛時。
潮の郷と云うから、水辺の土地だろう。詩を尋ねて新しい姿を展べよう。中国人は中国のことを神州と云い、いま花盛りだ,中国は飛躍の時だ。新年には日本人も同じようなことを云う。
曄歌
前回に続いて曄歌(漢詩詞定形の一つです)を作ってみましょう。
作り方は簡単で、○○○+○○○○+○○○の合計十字で完成です。今は梅雨時ですから、梅雨時の語彙を集めました。
初めの三字; 雨鳩啼。午鶏啼。燕飛低。夕日低。寄新題。竹林西。夕日西。雨凄凄。白雲迷。委黄泥。
中の四字; 連日雨聲,六月庭中,細雨濛濛,黙座書窗,閣閣蛙聲,路上泥深,窗前双燕,枕上残書,茅檐宿雨,小院閑人
後の三字; 燕影低。雲脚低。午夢迷。草樹迷。柳覆堤。一尺泥。水満堤。多話題。客意迷。遠樹斉。
先ず一首。初めの三字から、燕飛低。中の四字から、黙座書窗,後の三字から、午夢迷。を選んだ。燕飛低。黙座書窗,午夢迷。これで完成です。
内蒙古 楊鳳趾 和中山栄造
美巻誰人画,江山一縷横。朝雲託麗日,暮彩対峰晴。
展目初興盛,回頭早罷兵。風光無限美,景気兆清平。
内蒙古は中国東北部に位置する。中国では全部漢字を使っているかと云うと、そうでもない。楊鳳趾先生の作品は漢字書きだが、以前の手紙は見た事もない文字で綴られていた。旧満州で使われていたような字で、アラビア文字を縦書きにしたような、文字である。今では中国というと、一括りにしているが、文字も違う民族も違う、勿論歴史も違う、地域が幾つもある。旧満州もその一つである。
この作品は小生の作品《長江勝游》を読んで、その感想を作品にしたのである。
美巻誰人画,江山一縷横。と云っているが、これは作品の中の事を言っているのである。朝雲託麗日,暮彩対峰晴。は夜明けの景色てある。展目初興盛,回頭早罷兵。は戦乱が止んで、風光無限美,景気兆清平。で、平和が訪れると、結んでいる。
坤歌
前回に続いて今回は坤歌(こんか)(漢詩詞定形の一つです)を作ってみましょう。
作り方は前二回の曄歌と同じで、○○○+○○○○+○○○の合計十字で完成です。内容を社会風刺に限る事です。前回同様に語彙を集めました。
初の三字;古今同。未成功。一年空。銭已空。竹馬童。在胸中。方寸中。気力充。西復東。
中の四字;美人薄命,明眸多恨,栄枯盛衰,乾坤一擲,山積文章,紅顔白髪,何処黄金,
後の三字;想江東。四時同。在梧桐。五尺童。覗鏡中。泣草虫。永遠忠。宴未終。官吏宮。
先ず一首。初めの三字から、銭已空。中の四字から、何処黄金,後の三字から、官吏宮。を選んだ。銭已空。何処黄金,官吏宮。これで完成です。同様に 明眸多恨。山積文章,官吏宮。同じ方法で組み合わせれば、沢山出来ます。
中国では小学生の連絡帳も漢字書きなのですから、漢詩は普通の事です。
七絶 游春 貴陽師範中一 何良菊
春雨濛濛薄似紗,長堤柳樹吐新芽。千紅萬紫游春意,一簇一叢燦若霞。
春雨は濛濛として薄く紗に似て,長堤の柳樹は新いし芽を吐く。千紅萬紫 游春の意,一簇一叢 燦として霞の若し。
評:春の景色を詠った作品で特別巧い作品ではないが、数学のテキストを幾ら読んでも練習問題を解かないと、出来るように成らないと同じで、練習すればこれ位の作品なら、読者諸賢も、年末には作れるようになります。
前回まで、曄歌と坤歌の作り方を解説した。作品は寄せられなかったが、たぶん、試みに作った人は多いと思う。
今度は、日本の俳句を曄歌に書き直す、即ち飜寫作品を紹介しよう。なお、此処に示した作品と手法は、世界の漢詩詞壇に通用するものです。
俳句:古池や蛙飛び込む水の音 芭蕉
曄歌:古池畔 青蛙跳起 泛水声
俳句:あけぼのやしら魚しろきこと一寸 芭蕉
曄歌:東方白 白魚堆銀 一寸身
俳句:大空に又わきい出し小鳥かな 高浜虚子
曄歌:天高飛 鳥忙群群 又涌來
俳句:長き夜や障子の外ともし行く 正岡子規
曄歌:夜漫漫 格子窗外 走灯火
俳句:秋立つや何におどろく陰陽師 蕪村
曄歌:立秋日 爲何驚悸 陰陽師
漢字文化圏に通用する新短詩は、曄歌;俳句対応、坤歌;川柳対応、偲歌;都々逸対応、瀛歌;短歌対応、と四種類がある。
中国には、都々逸の様な作品はを作る習慣は、表だっては無いので、都々逸の趣旨は、余り理解されない。ただ人間愛、家族愛、男女愛だろうと云うぐらいは理解されている。
漢詩というと、杜甫や李白の作品ばかりではない。日本から建議した定形でも、ちゃんと通用しているのである。中国社会はそれだけに柔軟な社会なのである。
中国福建省南平市 陳學梁 偲歌;老年群體事業雑事
01−長年退休,伍入老齢,心體尚健,餘熱多。
02−老齢社会,人材済済,六十八十,四分一。
03−老人羣體,社会財富,獲好用好,是良策。
04−年高徳重,教育青年,傾心施教,作棟梁。
05−老年天地,老有所爲,夕陽燦爛,霞満天。
06−科技下郷,維獲治安,文體活動,顕身手。
07−晩年生活,不凍不餓,有養有楽,是基本。
08−社会進歩,老年有分,不顧白頭,有欠缺。
09−老人事業,全民関注,社会参輿,共支持。
10−人皆會老,家皆有老,尊老敬老,文明国。
詩の中から色々な事が読み取れる。中国も年寄りが多いんだなあ!25%もいるのか?年寄りは貴重な財産だ!年寄りを大事にしよう!作者も恐らく高齢者で有ろうか?
今回までで、曄歌・坤歌・偲歌・瀛歌と云う、漢詩の定形、四種類を紹介しました。漢詩と云うと、何となく難しいと云う先入観が有りましたが、少しは払拭された事と思います。これ程に易しい定形でも、ちゃんと全世界に通用する定形なのだから、これを活用しない手は無いと思います。
書道を為さっている方は多いようですが、その殆どは、他人様の作った作品を書いているようにお聞きします。これからは、ご自分で作った作品を書かれる事にしては如何ですか?
一度読めば即座に作れるテキストがありますので、ご希望の方は、葉書で申し込まれれば、無料で差し上げましょう。中学生以上なら簡単にできますから是非ご活用下さい。
現代中国の方が、日本に来て詠んだ作品を紹介しよう。
東京郊外賞玉蘭 中国対外文化交流協会常務会長 劉徳有
花蕾春催裂,風雅獨清香不絶,淡如三月雪。
夜桜 同人
月下賞繁桜,花雪紛紛似有情,君能挙歩行?
大相撲 同人
揮扇指東西,蛟龍猛虎決雌雄,奇勝抖威風
評:これも易しそうな定形だ!器用な人なら簡単に作れそうだ!
日本では勿論、個人的には俳句や短歌を嗜む人は多いのだが、政治家や官吏が、文人の教養として、日本詩歌、即ち短歌や俳句を嗜む事が要件とは、聞いたことがない。
然し、中国においては、知識人の要件として詩歌を嗜むことは、歴史的な習慣で、この伝統は現在でも続いている。彼らは、それぞれの詩詞壇に所属し、会員の一人としてその作品は、詩詞壇の機関誌に掲載される。日本の我々が同じ詩壇に投稿すれば、当然のこととして、彼等と同じページに掲載されることもある。
日本の詩壇では掲載料を取ると聞くが、中国の詩詞壇では、日本のそれとは反対で、投稿作品に原稿料を払う習慣があるので、原稿料の代わりに機関誌を無償で贈ってくれる。
長年、中国の詩詞壇に投稿していると、偶には彼等と一緒に載った機関誌があるので、拾い出して紹介しよう。
贈顧育老師 北京 江沢民 中国共産党総書記・中央軍事委員会主席
重教尊師新天地,艱辛攻読憶華年。微分運算功無比,耄耄恢恢郷國篇。
参観欧初同志画展 北京 孫軼青 (現中華詩詞学会会長)
夭矯龍蛇執與夢,清詞麗句足千秋。文章改事般般好,更有丹青占上頭。
自勉之作 北京 林林 (前中日友好協会副会長)
葵花向日不移枝,梅蕊欣開雪夜時。志士焉能無理想,征途怎可倒驢騎。
今回は、集句を紹介しよう。集句とは、他人様の作った作品の中から、気に入った一句を選び出し、これを定型に合わせて繋ぎ合わせて、新たに一句を作るという創作法である。これが中々の難物で、許多の作品の中から、句意とリズムの合ったものを探し出すのである。
先ずは作品を紹介しよう。
秋夜集句 梁橋
西風吹雨滴寒更, 泰韜
宋玉含凄夢亦驚。 許諢
楊柳敗梢飛葉響, 譚用
千家砧杵共秋聲。 銭起
客中閑酌 中山逍雀
花間一壺酒, 李白 月下独酌
天畔獨潸然。 劉張卿 新年作
明日隔山岳, 杜甫 贈衛八処士臨風聴暮蝉。 王維 閑居贈裴秀才迪
つい数日前、中国浙江省海鹽縣の詩友から作品が送られてきた。編者が自作の詩集《鶏肋集》を贈ったので、そのお礼の作品である。恐らく全部読んでくれたのだろう。
甲申秋拝読中山栄造先生《鶏肋集》,興起集句成七絶一首呈正 浙江省 王留芳
處處風姿難解得, (桂林游草)
賦君奇句叔心泉。 (次韵廣工先生七律花甲抒懐)
胸中萬感以情會, (歩韵李知鳳先生玉作)
執筆開窗片月懸。 (答蔡文強詞長来函)
ご閲覧誠に有り難う御座いました。
明年もよろしくご閲覧のほどお願いを申し上げます。
諸賢各位に擱かれましては、良き新年を迎えられますことを心よりお祈り申し上げます。