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東葛市民新聞 平成18年

1月号

 新年おめでとう御座います。

 今月は、中国のご婦人が俳句を作り、日本のご婦人が漢詩に書き直すと謂う、一風変わった作品を紹介しましょう。

  李珮雲女史俳句改寫曄歌四首

張家界                     俳句を詠んだ場所

奇峰また奇峰の天山秋涼し        李珮雲女史の俳句

峯重長。天山奇峰,秋清涼。        高橋香雪女史の漢詩

 

鳳凰城                      俳句を詠んだ場所

天高き百年の古城巡りけり        李珮雲女史の俳句

高高天。巡遊古城,一百年。         高橋香雪女史の漢詩

 

海南島                       俳句を詠んだ場所

西は海東は萬泉河夏の博鰲        李珮雲女史の俳句

西潮。東見萬泉,河夏博鰲。        高橋香雪女史の漢詩

 

北京                        俳句を詠んだ場所

日本史中国史を読む冬燈火         李珮雲女史の俳句

燈下巻。日中歴史,冬夜暖。        高橋香雪女史の漢詩

 

 

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2月号 

今月は「楹聯」を紹介しよう。中國貴州省に貴州省楹聯学会と謂う同好の団体が有って、「貴州楹聯」と謂う月刊誌を出しているので、その中から分かり易い作品を拾い出してみよう。

農村理髪店  頂上工夫,頭頭是道;髪稍技藝,面面皆春。

農家粉絲廠  豆子本無心,有意加工成綫粉;農民兼絶藝,不難出售換資金。

青山頌    四季青,月季花,花開四季;三春柳,領春樹,樹旺三春。

花溪     花径幽香蜂喜聚;溪流曲折客常游。

梵浄山    雲海浪千重,游濱欲酔,巉岩書萬巻,勝景称奇。

 

       萬巻詩門秘;千秋筆硯師。     以下十一は編者の作品です

               一病安心處;千金落魄身。

       歳歳花開落;年年人死生。

       子女夫妻福;鶴髪偕老縁。

       英勇功名羊腸路;朋友氷心翰墨縁。

       殺戮牛豚称愛護;侵略国土弄和平。

       我想青山幾層楼;君看白梅數枝花。

       幾度春風人結髪;多年交友月有情。

       嶺嶽雷轟輸急雨;林溪客惑結深憂。

               臨風喞喞自終夕;邀月啾啾度永宵。

       立志諮功出郷里;耽詩溺酒散私財。

 

 

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3月号

 今春は冬季オリンピックとライブドアと偽メールと話題に事欠きませんでした。天下の不幸は詩家の幸と謂う不謹慎な言葉がありますが、昨年末から今春まで、不謹慎なことが多すぎました。

 唯一、心温まる事は、荒川静香女史の金メダルと、更に嬉しいのは、パラリンピックの大健闘でしょう。彼等の大健闘を耳目にする度に、心躍らされます。

  賛フイギアスケート荒川静香女士 松戸 小畑旭翠
十年辛苦三年思,千匝萬周只一身。豪気胸中應有意,無心皓歯淡粧人。

  ライブドア事件雑感 松戸 橋本新歌
足智多謀誇妙算,砂丘築塔欲登天。走火入魔撞法网,高墻鎖身悟方圓。

  憤慨“メール問題” 松戸 橋本新歌
満腔壮志急登場,半紙狂言作戯装。天生我才必有用,莫笑乳臭夢黄梁。

 

 福は内鬼は外、豆撒きを漢俳と俳句の両建てにした作品を紹介しよう。

  撒豆駆邪気 松戸 今田莵庵
立春前夜追,鬼豆嚢表中國産,家家童子施。  鬼打ち豆中国製と記しあり
投豆爲ー邪。開窗塞窗隣家壁,狭小宅地嗟。  鬼はそと開けど塞ぐ隣家有り

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4月号

 今月は「詞」を紹介しよう。詞の定型は全部で二千餘体有ると謂われ、その定型数は世界最多を誇ります。

 通常では、その一割程度の二百餘の定型が用いられています。この作品は、定型を「沁園春」と言い、前段と後段の二部で構成されています。

  沁園春 春雨      千葉県 中山逍雀

(前段)酒に託して懐を養い,机に凭れて雨垂れを聴き,我が愚かさを嗤う。

街の朝のざわめき,昼の花の白白,暮の鐘の蕭寂,夜雨の絲絲たるを憂う。

天地は窮り無く,人生は限り有り,厳しい浮き世の更に危きを知る。

聊のつまずき,夢中の一哭に堪え,我が無知を恥じる。

(後段)凡夫の行く先は何処なのか?,峰を登れば更に高い峰が有るのを知る。

浮き世には親友も,胸中には熱い血が有り,月には満ち欠けが有り,巧拙も色々ある。

歳を重ねても花は同じで,年を重ねて人は老い,小庭の東風は幸いにも欺く事はない。

垣根の下には,水仙やすみれが目覚めて,高い枝には鶯が来る。

 

  沁園春 春雨

(前段)託酒養懐,凭几聴滴,爲嗤我癡。憂朝城繚乱,昼花白白;暮鐘蕭寂,夜雨絲絲。天壌無窮,人生有限,知轗軻世路更危。聊蹉跌,夢中堪一哭,恥我無知。

(後段)凡夫行路何之,知踏上峰巓更峰高。有浮世親友,胸中熱血;月有圓缺,巧拙多岐。歳歳花同,年年人老,小院東風幸不欺。籬落下,醒水仙菫菜,鶯到高枝。

 

 

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5月号

 今月は楹聯をを紹介しよう。中国旅行に行くと街のあちこちの看板や、寺院の柱に文字を書いた板が懸かっているのを見かける。これは、右と左で一組になっていて、俗に言えばプラカードの様なものである。

 楹聯は、板にだけに書くとは限らない。今では、詩や詞の様な文学作品として、紙面に載り、楹聯の学会まである。前置きは此までとして、作品を紹介しよう。

  戌春聯 録貴州省楹聯学会機関誌

紅冠錦羽,金聲玉振和諧美;義胆忠心,戸泰家寧大治年。

政善國強,赤縣頻馳千里馬;府興民富,新年更上一層楼。

 

  雑聯 中山逍雀

百草園中趣;三冬日暮時。

寒江雪月三冬白;草屋南天百點紅。

君子春風一杯酒;佳人秋月?行詩。

 

  婚聯 中山逍雀

并肩携手長相助;挙案深情永共歓。 (横批)山盟海誓

克勤克倹功更倍;同徳同心志益堅。

情深自到千年福;愛永終成百歳歓。

注;横批とは、聯を繋ぐ語彙で、柱と柱の間に掛けられた額に書いてある。

 

 

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6月号

葛飾吟社中国支社開設のお知らせ

 私は漢詩を使って国際交流をしていますが、交流相手の殆どが中国国内の詩人ですから、日本国内での出版と郵送は、製本と郵便料金がとても多くかかります。

 予てから、中国国内での出版と配本を希望していたのですが、この度、商売抜きで引き受けてくれる友人が出来ましたので、葛飾吟社中国支社と銘打って、日本の俳句・川柳・都々逸・短歌の漢字書きの定型である「曄歌」「坤歌」「偲歌」「瀛歌」の専門季刊誌を出版する事と致しました。

 現在は準備段階ですが、皆様方の寄稿が頼りですから、東葛市民新聞読者諸賢の寄稿をお待ち申しております。

 作り方は至極簡単で、曄歌と坤歌は漢字で、三字+四字+三字で綴ればよいのです。偲歌は、漢字で四+四+四+三字と綴ればよいのです。瀛歌は漢字で三+四+三+四+四字と綴ればよいのです。その外に、喧しい規則はありません。ちょっと器用な人なら誰でも作れます。

 半切りの原稿用紙に作品と住所氏名を分かり易く書いて、小生の下に郵送して下されば、創刊号を無償で提供します。

 尚、季刊誌ですから、年に四回発行します。第三号から配送費用は頂戴いたしますが、誌代は無料ですから、草の根の国際交流になりますので是非、ご寄稿下さい。

なお作り方のテキストもあります。無償で提供します。寄稿先は

270−2251 松戸市金ヶ作310番地 葛飾吟社 中山逍雀

 

 

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7月号

新短詩の作り方

 先月は、新短詩の募集をしたので、今月から新短詩の作り方を解説しよう。一般に、漢詩は難しいという先入観がありますが、これから解説する新短詩は至極簡単ですが、中国全土で通用しますからご安心下さい。

 曄歌(ようか)曄歌の「曄」の字は、日本の「日」と、中華の「華」を意味します。文化交流には、ピッタリの名称です。

 漢詩の定型は、漢字三字+四字+三字の構成です。丁度暑い盛りの三字句と四字句を集めてみました。先ずは上段の三字句を選び、其れに続けて中段の四字句を選び、又続けて下段の三字句を選び、線で結びましょう。

 例えば、晩潮平。獨領清風,寄此生。とします。此で、中国全土に通用する漢詩が一首出来ました。

 

「庚韵」

晩潮平    一畝清陰    寄此生

暮烟横    凉影満身    暮色生

遠山横    千里雲山    釣艇軽

暮潮平    修竹千竿    短艇軽

櫓聲鳴    七月街中    心更清

夏衣軽    獨領清風    入晩晴

遣吟情    遮断黄塵    海面平

聴濤聲    竹影移階    沙亦清

片帆軽    山色水光    月更清

白鴎盟    積翠浮雲    返照明

約朋行    山静日長    漁火明

一看軽    一架薔薇    鴎不驚

一詩成    竹気吹香    波浪驚

晩雲横    当面青山    夢自平

有餘情    六尺湘簾    暗自驚

日西傾    白雨傾盆    眠不成

 

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8月号

 この頃の空は濁って、天の河もろくに望めない!人の欲望は際限がない。快適!快適!を求めれば、それだけ、地球を損なっているのだ!あと五十年経ったらどんな風になるのか?先のことは想像だけど、五十年前と今とは比べることが出来る。

 先月に倣って、今月も語彙を書き出してみよう!過去を思い出しながら、将来を憂慮しよう。

 新聞が読めれば誰にでも出来ますので、気休めに作ってみましょう。

 適当な語彙を上の段から選び、次に其れに続く四字句を中段から選び、更に、其れに続く語彙を下段から選びます。そうすれば、簡単に程々の作品が簡単に出来ます。

「庚韵」

過三庚     草緑陽紅      蟋蟀鳴

月三更       昼永雷奔      鐵馬鳴

白雲横     一枕生凉      促織鳴

遠山横       驟雨如秋      浙浙鳴

一枝横     拭汗解衣      白屋栄

雁初横      作句繙書        草尚栄

彩霓横     白雨蘇人      草木栄

綻金英        午枕窗前      好弟兄

點紅英     四壁無塵        誤一生

白雲平     一葉落地        感慨生

覚心平     眉月有情      片月生

水禽驚     秋自庭桐        白雲生

客心驚     也愛吟燈        戸外迎

入秋驚     竹影當窗      任意行

野花明     六尺湘簾      日月行

月華明        白雨傾盆      借傘行

佛燈明     風竹蕭蕭      待雨耕

舊時盟        雨洗残炎      痩土耕

 

 

 

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9月号

 今回は日本の漢詩人も余り口にしない「羊角對」を紹介しよう。羊角對は無情對とも言い、楹聯の一種です。インターネットで「羊角對」と書き込んで検索しますと、沢山の作品を閲覧できます。

 詩詞で言う対句は互に向かい合った内容ですが、この対句は、その名の示すとおり羊の角のように、互に離れているのです。

 簡単な規則を書きますと、文字面と声調と文法構造は、互に均整がとれていますが、内容はかけ離れるほど良いと云われています。

 問い掛けに対して、答える形態ですが、その答えがトンチンカンです。然し其処にある種、相通じるものがあり、笑わせる!のが羊角對の神髄です。

 会話で用いたり、文に用いて、幽黙或いは机を叩いて大笑いをするなどの、笑いを誘います。

 中國福建省南平市延平区楹聯学会「無情聯圃」紙で作品を募集しています。郵便料金を払えば掲載紙を送ってくれます。投稿しては如何ですか?

投稿先
 中國福建省南平市府前路51-2-501信箱 陳学粱先生

作品例

観音剖腹;我戯開心。

紅顔薄命;緑色生活。

相聲表演;電話聯通。

相聲表演;官話吹嘘。

教堂礼拝;騒客噛詩経。

星垂平野闊;江断屈原愁。

相逢開口笑;空想念奴嬌。


星垂平野闊;日照海流長。

横舟渡口候行人;落谷岔腰驚睡虎

北大荒有幸出幾多小説;南平市無情對第一専刊。

 

 

18-10


10月号

 詩の歴史は古く古代の人々の強く明るく生きる歌も多いが、人々は幸福ばかりではなく、苦しく虐げられ打ちひしがれて生活をする人々の方がはるかに多かった。

 「孤児行」は、父母を失った少年が兄夫婦に虐待酷使される苦しみを詠う。封建的な大家族では、家産は家長に集中するため、兄弟であっても家長の権勢の下に不本意な生活を送らなければならない事も多い。兄弟の関係は、今も昔も中々困難な問題で、小説の題材にも多い。

  「孤児の歌」

  孤児の生、孤児の生は、命独り当に苦し。父母の在ませし時は、堅き車に乗り、駟(四頭立ての馬車)を駆けたり。父母已に去りてより、兄と兄嫁は我に行商を為さしむ。

  南は九江に到り、東は魯と齋に到る。師走に帰り来たれども、敢えて自ら苦しみを言わず。頭には虱多く、顔は塵多し。上の兄は飯を作れと言い、兄嫁は馬の手入れをせよという。高き堂に登り、殿下の堂に行き趨る。孤児の涙は流れて雨の如し。

 我をして朝に水汲に行か使め、暮れに水を得て帰り来る。手は皹割れを成し、足の下に草履なし。愴愴と霜を踏めば、中には刺棘多し。抜け断えし棘は脹ら脛の肉の中にあり、傷みて悲しまんと欲す。涙はボロボロと、鼻汁はボトボトと落つ。冬には袷無く、夏には単衣無し。

 この世に居りても楽しからず、早く去りぬに如かず。地下の黄泉に従わん。春の気は動き、草は芽を萌やす。三月に蚕と桑の事し、六月に瓜を収る。此の瓜車を引きて、来たり至りて家に還りしに、瓜車の反覆る。我を助ける者は少なく、瓜を食らう者は多し。

 願わくば我に蔕を返せ、兄と兄嫁は厳し。独り直ぐに急ぎ還れば、将にいざこざを起こすべし。

 返し歌に曰く

 村の中ひとえに何ぞ騒がし、願わくば尺の書を寄せて、将に地下の父母に与えんと欲す。

 

 

18-11/10


11月号

 《東葛市民新聞》には俳句や短歌の欄も在ります。昨年中國北京に漢俳学会が出来て、私も日本俳壇の代表者数人に混じって設立総会に招待された経緯がある。

 漢俳とは俳句と漢詩の融通を為す定型詩である。小生門下の今田莵庵兄が《汎汎輩集》と言うご自分の俳句と漢俳を載せた詩集を上梓したので、紹介しよう。

 

俳句  訥々とテレビ夜長の笠智衆

漢俳  秋宵電視酣,“笠智衆”談聲訥訥,天愧老演員。

 

俳句  秋薔薇におとがひ埋め嫁し行きぬ

漢俳  埋頭包薔薇,穿着長裙嫁出去,感謝父母心。

 

俳句  咳きの止みて湧き来ぬ「死と乙女」

漢俳  会場咳溂鎮。“死与少女”四弦奏,戯臺已湛然。

 

俳句  風邪の床飽かずに断腸亭日乗

漢俳  臥床因感冒,“断腸亭”録毎日閲,百看不厭煩。

 

俳句  片栗の花邊に宅地迫り居し

漢俳  春開猪牙花,樹下地茎發嫩芽,住宅逼近傍。

 

俳句  竹の秋三河の厚き屋根続く

漢俳  竹林落葉秋,火車隆隆奔三州,家家屋頂厚。

 

 《汎汎輩集》は今田莵庵兄がご自分の俳句作品二百首に漢詩を対応させた日本最初の詩集であろう。

 興味がある方は、本の裏書きに著者今田述 松戸市常盤平双葉町七の四 電〇四七-三八八-〇六五二と記載があるので、紹介しよう。

 

 

  

18-12/11


12月号

 若者と違って年かさを重ねると月日の過ぎるのが実に早い。フランスの心理学者「ジヤーネーの法則」と言うのがあって、「時間の感覚は年齢の逆数に比例する」のだそうです。小学生の一年は私などは二ヶ月にしか感じないと言うことか?

 さて今月は少し趣の違った作品を紹介しよう。寺の柱に書かれている「楹聯」の仲間で、「笠翁對韵」と言うジャンルがある。詩詞とは同工異曲の妙がある趣味性の

高い作品である。皆さんも西遊記・孫悟空はお読みになったことがあると思います。

沙大将;沙悟浄です。猪天蓬;猪八戒です。

孫悟空は猿聖ですね!

 

西遊記

 

眞對偽,異對同。

地府對天宮。

山精對水怪,佛祖對仙翁。

沙大将,猪天蓬。

猿聖對神龍。

桧號凌空子,柏称孤直公。

調扇譏羞羅刹女,坐誘伏善財童。

火眼金睛、挙棒三遭打白骨;守山擁院、?箍一念渡黒熊。

 

紙面が余ったのでもう一聯紹介しよう。

身体

 

心對口,面對身。

皓歯對朱唇。

咽喉對肺腑,肝胆對腹心。

赤面丹心誠烈士,朱顔緑鬢是佳人